2015年06月08日

ハンナ・アレント『人間の条件』(ちくま学芸文庫)

人間の条件 (ちくま学芸文庫)

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第一章 人間の条件

1 〈活動的生活〉と人間の条件

 〈活動的生活〉vita activa という用語によって、私は、三つの基本的な人間の活動力、すなわち、労働、仕事、活動を意味するものとしたいと思う。この三つの活動力が基本的だというのは、人間が地上の生命を得た際の根本的な条件に、それぞれが対応しているからである。

 労働 labor とは、人間の肉体の生物学的過程に対応する活動力である。人間の肉体が自然に成長し、新陳代謝を行ない、そして最後には朽ちてしまうこの過程は、労働によって生命過程の中で生み出され消費される生活の必要物に拘束されている。そこで、労働の人間的条件は生命それ自体である。

 仕事 work とは、人間存在の非自然性に対応する活動力である。人間存在は、種の永遠に続く生命循環に盲目的に付き従うところにはないし、人間が死すべき存在だという事実は、種の生命循環が永遠だということによって慰められるものでもない。仕事は、すべての自然環境と際立って異なる物の「人工的」世界を作り出す。その物の世界の境界線の内部で、それぞれ個々の生命は安住の地を見いだすのであるが、他方、この世界そのものはそれら個々の生命を超えて永続するようにできている。そこで、仕事の人間的条件は世界性((ワールドリネス))である。

 活動 action とは、物あるいは事柄の介入なしに直接人と人との間で行なわれる唯一の活動力であり、多数性という人間の条件、すなわち、地球上に生き世界に住むのが一人の人間 man ではなく、多数の人間 men であるという事実に対応している。たしかに人間の条件のすべての側面が多少とも政治に係ってはいる。しかしこの多数性こそ、全政治生活の条件であり、その必要条件であるばかりか、最大の条件である。たとえば、私たちが知っている中でおそらく最も政治的な民族であるローマ人の言葉では、「生きる」ということと「人びとの間にある」(inter homines esse)ということ、あるいは「死ぬ」ということと「人びとの間にあることを止める」(inter homines esse desinere)ということは同義語として用いられた。しかし、活動の人間的条件は、その最も基本的な形として、すでに『創世記』の中で暗示されている(「神は男と女、彼らを造った」)。もちろんこの場合考えに入れておかなければならないが、人間創造のこの物語は、神がもともと造ったのは一人の男(アダム)、つまり「彼」であって「彼ら」ではなく、したがって人間の多様性は増殖の結果であるとする別の物語と根本において異なっている。もし、人間というものが、同じモデルを際限なく繰り返してできる再生産物にすぎず、その本性と本質はすべて同一で、他の物の本性や本質と同じように予見可能なものであるとするなら、どうだろう。その場合、活動は不必要な贅沢であり、行動((ビヘイヴィア))の一般法則を破る気まぐれな介入にすぎないだろう。多数性が人間活動の条件であるというのは、私たちが人間であるという点ですべて同一でありながら、だれ一人として、過去に生きた他人、現に生きている他人、将来生きるであろう他人と、けっして同一ではないからである。

 この三つの活動力とそれに対応する諸条件は、すべて人間存在の最も一般的な条件である生と死、出生と可死性に深く結びついている。労働は、個体の生存のみならず、種の生命をも保障する。仕事とその生産物である人間の工作物は、死すべき生命の空しさと人間的時間のはかない性格に一定の永続性と耐久性を与える。活動は、それが政治体を創設し維持することができる限りは、記憶の条件、つまり、歴史の条件を作り出す。また、労働と仕事と活動は、未知なる人として世界に生まれる新来者が絶えず流入することを予定し、それを考慮に入れ、彼らのために世界を与え保持する課題をもっている。その限りで、出生という人間の条件に最も密接な関連をもつ。というのは、誕生に固有の新しい始まりが世界で感じられるのは、新来者が新しい事柄を始める能力、つまり活動する能力をもっているからにほかならないからである。この創始という点では、活動の要素、したがって出生の要素は、すべての人間の活動力に含まれているものである。その上、活動がすぐれて政治的な活動力である以上、可死性ではなく出生こそ、形而上学的思考と区別される政治的思考の中心的な範疇であろう。




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タグ:政治哲学
posted by R_Partner at 19:07| Comment(0) | ちくま学芸文庫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする